認知症と生きる希望の処方箋

野澤和之監督からのメッセージ

「あざみ野STYLE」3月号 野澤監督のインタビュー記事から

 2022年1月5日にようやくクランクインをしました。名古屋のある病院、あるいはDカフェに参加して、ドクター、ナース、そして認知症患者の方々の撮影を開始しました。コロナ禍においても認知症の方は闘っていますので、ようやく始めることができて良かったです。取材先の病院長始め関係者の方々には万全な体制で迎えていただきました。画面はマスク姿が多くなりますが、いい感じで撮影ができています。この調子で半年以上追うことができれば、素晴らしいドラマツリー、物語ができるのではないかと思います。企画の段階ではさまざまなアイデアがありましたが、この段階にきて方向性も定まってきました。結局我々は、「認知症と共に生きる」「with 認知症とは何か」をテーマにすることにしました。コロナも完全に収まることはなく、「withコロナ」と呼ばれているように、「with 認知症」のあり方を映像化しようということになりました。

 認知症は基本的に完治するものではありません。つまり、治癒する病ではなく、ゆっくりと悪化し、ゆっくり認知症を理解しながら生きていくという視点を強調しようと思いました。認知症と共に生きるにはどうするかという意味で、認知症を防ぐにはどうしたらいいのか、あるいは介護する人はどう介護すればいいのか、新しい方法を紹介する内容になります。

 

 私は「認知症と生きる希望の処方箋」と企画書を書いたものの、実際に「希望の処方箋」とは何かという謎は解けていません。カメラを通してそれを探していくのがこの映画の趣旨です。認知症に対して、軽々しく「希望」と言うことはできません。認知症と共にどう生きていくのか、どのように認知症の進行をおそくするのか、いわゆる「まだらボケ」の中でも、幸せな瞬間はあるわけです。そういうときにどういう手法があるのか、現場を紹介します。それを医療の中で表現したいと思っています。秋以降になればタイトルも変わっているかもしれませんが、映画「認知症と生きる 希望の処方箋」を通して、一人ひとりが考えるような構成にしたいと思います。これまでは、認知症というのは治る病気だと思っていました。しかし、認知症は過渡期であって、エイジングが進めば誰でもなる可能性があります。私たちが撮影させていただいている人に、癌であり認知症の方がいらっしゃいます。その方は癌への恐怖はまるでありません。となると、認知症というのは与えられた病であって、その人にとっては幸せなのではないかと複雑な気持ちになっています。実際、撮影を行っているときも、認知症と共に皆さん生きていますし、元気です。この映画は、僕の長年のドキュメンタリストの確信として、傑作になると感じています。現在の段階でこれほどいいものが撮れることはなかなかありません。アカデミックプロデューサーとして参加いただいている真野俊樹先生のご尽力のおかげで、とてもいい人に出会い、ユニークな作品になるような気がしています。非常にいい感触です。